Wednesday, June 12, 2013

Auden



ヴィクトリア滞在中、ずっと行きたいと思っていた本屋さんへ行きました。
ゆっくりはできなかったけれど、
帰り際、レジの近くで見つけた懐かしいオーデンの詩集を2冊買いました。
ひとつは自分に、もうひとつはあるお友達に読んで欲しいなと思って。

ウィスタン・ヒュー・オーデンをはじめて読んだのは10代の終わりの頃でした。
"Look, stranger, at this island now" というもの。
1936年にイギリスで出版された “Look, Stranger!” という詩集に載っていますが、
これは後に結婚することになるトーマス・マンの娘エリカへの贈り物だったそうです。

(37年に出版されたアメリカ版では「On This Island」とタイトルがかわっています。
オーデンとエリカ・マンとの関係は興味深いのですが、長くなるのでここでは割愛。


イギリスで生まれ、アメリカへ移り、最後はウィーンで人生の幕を閉じたオーデンは、
400近い詩を残したそうです。
ポール・ヴァレリーやリルケやイェイツほど有名ではないかもしれませんが、
「Leap Before You Look(見るまえに飛べ)」や「September 1, 1939」という詩は
聞いたことがあるかもしれません。
彼は詩人としてはめずらしく作品のスタイルをコロコロ変えたそうで、
時代の思想に大きく左右されたようです。
題材に戦争への嫌悪感を示すものも多いのはそのせい。
自分の周りの出来事に関心を向け、常に物事への視点を改めてきた人。
インスピレーションと希望が詰まった「想像の世界」ではなく、
自分が今まさに自身の足で立っている世界を、
ときには辛辣に、描いていた作家なのだと私は思っています。

簡単にですが、"Look, stranger, at this island now"を

私の感じたように訳してみました。(完全な直訳ではないです)


〜〜〜

Look, stranger, at this island now
The leaping light for your delight discovers,
Stand stable here
And silent be,
That through the channels of the ear
May wander like a river
The swaying sound of the sea.

Here at the small field's ending pause
Where the chalk wall falls to the form, and its tall ledges
Oppose the pluck
And knock of the tide.
And the shingle scrambles after the sucking surf, and the gull lodges
A moment on its sheer side.

Far off like floating seeds the ships
Diverge on urgent voluntary errands;
And the full view
Indeed may enter
And move in memory as now these clouds do,
That pass the harbour mirror
And all the summer through the water saunter.

November, 1935




新たに来た者よ、見てごらん
君を喜ばすために飛び跳ねる光を
今この島で見ることができるだろう
ここにしっかり立って
じっとしていなさい
海の揺れ動く音が
耳の回線を通って
川のさすらいのように聞こえてくるから

その波打ち際で立ち止まってごらん
白亜の岸壁はその影を形作り
背の高い岩棚は
前後に引いたり伸びたりする潮に抵抗している
波の打ち飛沫のあとには水に洗われた小石が残され
険しい岸壁の淵にはカモメが一瞬止まる

このずっとむこうでは
まるで水に撒いた種のように
船がそれぞれの目的地に向かって 四方八方に広がっていく
この情景は実に長い間
記憶の中に色濃く残ることだろう
港の鏡のような水面に映し出された雲が
夏中ずっと水の中で揺らぎ続けるかのように

〜〜〜

夏の情景のヒトコマ。
この島(イギリス)の景色の美しさや岸辺の波音を自分でよく見て楽しんでと、
旅人に語りかけるところからこの詩は始まります。
「頑張って前進していきなさい。でも疲れたら海を見て休んでもいいよ。
君はこんなに美しい場所にいるんだから」
始めてこの詩を知った頃は私も日本を離れたばかりだったので、
この詩からはそんなメッセージが読み取れて・・。
そして私もよく学校帰りにボーッと海を眺めに行ったのでした。

「見る前に飛べ」などもそうですが、彼の詩は力強くて
地に根をはったような作品が多いのが特徴だと思います。


〜〜〜

今年で50周年を迎える1963年創業の個人経営の本屋さん。
現在の店舗には1984年に移転してきたそうですが、
その建物自体は古く、とても趣のある建築でした。
(お店についてはHPに記載があります。)
中もまるで美術館のような雰囲気で、ずっとその場にいたくなるような素敵な空間。

このお店、実は私が大好きな作家のアリス・マンローさんが、
当時のご主人とともにはじめられた本屋さんなのです。
現在はその元ご主人が経営を続けられているそうですが、
少しでもアリス・マンロー女史の世界を味わいたくてずっと行ってみたかったのでした。


本でも画材でも何でも、
今は大型店で安く手に入るのが当たり前になってきているけれど、
こういった個人で頑張っているところってすごく好きです。


Munro's Books (1108 Government Street Victoria, BC V8W 1Y2)
W. H. Auden's Selected Poems, edited by Edward Mendelson