”私はこの新世界にかれこれ三十年は住んでいる。
なるほど結果からいえば私は普通のことをしたまでだ。
国を出て将来を求めたのは私ばかりではないのだし、
もちろん私が最初ではない。
もちろん私が最初ではない。
それでも、これだけの距離を旅して、これだけ何度も食事をして、
これだけの人を知って、これだけの部屋に寝泊まりしたという、
これだけの人を知って、これだけの部屋に寝泊まりしたという、
その一歩ずつの行程に、自分でも首をひねりたくなることがある。
どれだけ普通に見えようと、私自身の想像を絶すると思うことがある。 ”
「三度目で最後の大陸」ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳(短編集『停電の夜に』より)
なんとなく、分かるような気がします。
私も日本を飛び出してからこれまでのことを今考えてみると、
自分がしたことなのに、ぎょっと驚いてしまうようなことがいくつもありました。
題名は知っていたけれど、読んだことがなかったこの短編集。
ベンガル人の両親を持つ作者はロンドン生まれのアメリカ育ち、
インドに住んだことがない彼女が語るインドと人間の関係。
カナダにもたくさんのインドの方がいるので、
日本にいた頃に比べたらずっとインドという国を身近に感じられるようになった分、
この短編集を読んでふと考えることがありました。
作者のラヒリさんは、国や文化の違いを体中で感じながら、
色んなことを考えて、
その中で自分自身の答えを探しながら生きてきた人なんだろうなあ。
出会いと別れ。受け入れなければいけないこと、
または切り捨てなければならないこと、
そういう「重荷」を人間は常に抱えているけれど、
でもいつだって次があるから、人と人はずっと同じ関係ではいられないんだろうな。
すごくいい本。
ブランケットにくるまって、静かな夜に読んで欲しいです。
ジュンパ・ラヒリ著「停電の夜に (新潮文庫)」